キミが隣りにいる奇跡

       〜かぐわしきは 君の… 8



ずんと冷え込んだ今宵の夕餉は、
キクナやハクサイ、ニンジン、椎茸、
エノキに薄あげ、豆腐に長ネギ。
餅巾着に、つくねを模した揚げ大豆のお団子も入りの、
風味も深いお出汁で煮込んだ上から、
出ものの大根を摺りおろしたみぞれ鍋。
あの神社でいただいたギンナンも入っており、
付け合わせは、ニラとワケギの酢味噌和えと
細切りコンニャクの甘辛炒め、一味添え。
鍋だと煮始めればすぐにも出来上がるので、
下ごしらえだけ済ませて、まずはお風呂に出掛けたお二人。
よ〜く温もり、ほこほこと暖かいまま、
コタツに陣取りカセットコンロを挟んで座せば。
ブッダの手際もお見事に、
あっと言う間に“どうぞお上がりvv”という食べ頃へ。

 「卵も落とすね。」
 「わvv 半熟にねvv」
 「了解♪」

まずは普通に食べて、
途中からは取り鉢に掬った半熟卵へつけて食べれば
風味も変わって二度美味しい。
醤油を垂らしてもよしで、
温かいお鍋を間に、今日あったことなぞ報告し合えば、
お顔もほころび、笑い声も絶えずで。

 「はあ、お腹いっぱいだvv」

御馳走様と手を合わせ、
お茶を味わい、ちょっと休んでからお片付け。
まだちょっと寝るには早いのでと、
コタツに戻ってテレビを点ければ、
宵のニュースの時間だったようで。
どこかで事故があったらしく、
陽が暮れた後らしい暗い中、
ヘルメットをかぶった交通関係のお巡りさんや
濃紺の作業儀みたいな制服を着た、
そちらも警察の関係者だろう、おじさんたちが
あっちだこっちだと駆け回っておいで。

 「スリップ事故だって。」
 「うあ、道が凍っていたんだね。」

死者は出なかったそうだけど、
大型トラック数台が玉突き状態になったせいで、
幹線道路が塞がれたそうで。
作業用か取材用か、投光機材で明々と照らされている現場だが、
駆け回ってる人たちの吐く息は真っ白だし、
降りしきる時雨の線が照らされての浮かび上がり、
時折ちかちか光っているのがまた、何とも寒々しい図であり。

 「大変そうだね。」
 「うん。」

何せ急な冷え込みだ。
大陸から南下して来た大寒気団のせいで、
いきなり一月下旬並みの気温になっているわ、
低気圧の大きいのがでんと居座っているわで、
東北の皆様は、
早くも家の庇までという積雪に見舞われ、
雪かきの日々にうんざりしているとかで。
今夜から明日にかけても大荒れと聞き、

 「…何か私たち、こんなヌクヌクしていていいのかな。」

コタツに突っ込んだ長めの脚の、
立てたお膝へ布団越しに顎を当てつつ、
イエスが微妙にしんみりとしたことを言い出す。
そこはやっぱり、
人々への愛を説き、アガペーを振り撒く神の子ですから、
苦難に翻弄されている人を見ると
人一倍心が騒いでしまいもするようで。
茨の冠の下に覗く眉も、
困ったときのそれ、
ハの字になるほど眉尻をぐぐんと下げておいでだったりし。
温かい御馳走、大好きな人との差し向かいという、
幸せの絶頂を堪能したばかりという満たされた身なればこそ、
そこへの罪悪感すら感じてそうな彼らしく。
とはいえ、

 「う〜ん。でもね、イエス。
  だからって、
  私たちが奇跡を廉売しに行けることでもないでしょう?」

人の和子らが大好きなイエスだけに、
困っているのを見過ごせぬという気持ちは判るがと。
ブッダが、こちらもやはり困ったような顔で宥めて差し上げる。
時の流れへの干渉が出来ないのと同じほど、
自然現象もまた、神や仏がどうこう出来る代物じゃあない。
風の神や雨の神などなどが、順当に仕事をし、
それらが関わり合うことで多彩な空模様が織り成される…というのが
天界に於ける道理の順番なので、

 「天文担当の皆様のすることへ、
  難癖をつけるのは よくないことだよ。」

 「そうなるよねぇ、やっぱり。」

専門職のすることなのに僭越なと、臍を曲げられることを案じる辺り。
彼らには彼らの事情というのがあるようで。

 「何でも出来るように思われてるけど、
  実際は こんなもんなんだよねぇ。」

確かに人ならぬ身です、実は桁の違う覇気や光を持つ者です。
心から念じることで、魔を祓ったり病を癒したりも出来ます。
真剣に説けば、
言葉が通じないはずの相手へ意を通じさせたり
向上心を植え付けることが出来ます。

 でもでも あのね?

思わぬ歓喜に“祝福あれ”と盛り上がってしまった、
そんな余波が及んでのこと。
バラだの蓮華だのが ぽぽぽぽ〜んと咲くような、
陶磁器の皿がパンになったり
尾の長い瑞鳥がどこからともなく飛んでくるような、
ほんの身の回りレベルの
そんなささやかな奇跡くらいなら ともかくも。(ささやか?)
此処に居ながらにして、
遠く離れたところの冷たい雨を降り止ませるとかいう、
あまりに大きな奇跡の力や転変は、
地上を混乱させるだけなので、繰り出すのは原則ご法度。
能力的には出来ることへさえ、
いろんなことわりが崩れるぞというのが判っているがため、
結句、何も出来ないのも同様だなんてねと。
そこのところが空しいなぁと思えたイエス様だったようであり。

 「結局 イケてない私たちなんだよねぇ。」

残念だよなぁと はぁあと吐息をつくのはともかくとして、
その言い回しが妙に今時風だったものだから。

 「何だい、それ。」

残念がるついで、自分へ向けての自嘲揶揄だろかと、
聞き返したブッダへ、ちらりと視線を向けてから。

 「う〜んと、ブッダが可愛いからいけないのーvv」
 「何なんだい、そりゃ。//////」

言っても詮無いことだけに、
悪ジャレに紛れさせてしまえとでも思ったらしいイエスであり。
そんな空気を察してのこと、
誤魔化しに入ったなと薄々感じたブッダ様としては。

 やるせなくて焦れておいでのヨシュア様の、
 切ない想いを持て余す ヒリヒリを静めてあげたくてのこと

私でよければ甘えなよと言う代わり、
変なこと言わないのと 合いの手のような会話を続ける。

 「やさしくて暖かくて、
  私を甘やかしてばっかのブッダだから。
  私の傍にいつも居なけりゃいけないんだよ?」

こんな駄々ばかりを言うなんて、
私おかしいなぁとさすがに感じたか。
視線を落としてしまうイエスだったのへ、

 「ずっと?」

短い一言で問う声がして。
それと一緒にばさりという、こたつ布団が動いた音もして。
顔を上げれば、ブッダがお向かいから立ち上がっている。
あれあれ、さすがに怒っちゃったかなと見上げつつ、

 「…うん、ずっと。」

そうと応じながらの目で追えば、
お揃いのセーター姿の彼もまた、
こちらを見つつの小さく微笑っていて。
そのままコタツの縁を回ってくると、
すぐのお隣りというほどの至近で腰を下ろし、
もう片足しか入れないほどの隙間へ、
それでも足を延ばして突っ込むと、

 「じゃあ、お言葉に甘えて。////////」

手初めに、すぐ傍に来たよということならしく。
やさしい笑顔を保っておいでだが、
口許をうにむにと咬みしめるよにしているのは、
まだまだ少しほど、照れ臭くて恥ずかしい気持ちの表れか。

 “…ああもう、キミってば。//////////”

こんな判りやすい睦言や態度なんて、
まだずんと恥ずかしいことのはずだのにね。
自分が詮無いことから気落ちしかかったというだけで、
包み込むよに甘えさせてくれる、
慣れないことへでも こうまで頑張ってくれるのだものね…。

 「? いえす?」

何も言い出さず、何の反応もないまま、
ただただ じっとこちらを見やるイエスなのへ。
え?外したかなと、
内心で徐々に不安になりかかるブッダ様だったけれど、

 「もうもうもうっ、
  好きにならないでいられる訳がないでしょー?///////」

何て可愛いんだろ、何て優しいんだろとの甘い甘い感慨ごと、
柔和で嫋やかな姿の愛しい人へ、
両腕広げて がばりと抱きついたイエスであり。

 「えっ?えっ?/////////」

抱きつかれるのは想定内。
でもでも、
背中へまで回された頼もしい手でうなじを支えられ、
あらためての真っ向からお顔を覗き込まれて。
甘く伏せがちにされた双眸に見つめられ、
優しい眼差しに見つめられながらという、
本格的な手順にのっとっての、
口づけへまで運ぼうとは思わなかったものだから。

 “……あ、えと。///////”

恥ずかしさから視線が逸れての泳いでしまい、
そのまま瞼も降りたのを見澄まして。
まずはと お鼻とお鼻をかすかに触れさせれば、
その先が予感出来るのか、

 「〜〜。////////」

ますますと含羞み、視線が降りてしまわれる如来様なので。
緋色の口許が緊張から引き結ばれてしまう前、
しっとりとした唇へ、角度をつけて はくりと食いつく。
柔らかな唇は、それは瑞々しくて心地がよくて。
頼りない感触を追いかけるよに、
其処も此処もと欲張ってついばめば、

 「…んぅ…。//////////」

懸命に応じてくれる感触がする中、
それでも耐え切れずにか、
甘い熱を帯びた吐息が
はうと 震えながら微かに洩れ出すのがまた、
妙に妖冶でしどけなくって。

  愛しているよ、大好きだよ、と

ついつい夢中になるのも致し方ないというものだろて。
気がつけば
互いの唇が潰され合うよな愛咬にまで至っておいで。
相手の背中を支えるイエスの手へは、
さらさらとした深色の豊かな髪が
上から覆うよに どっとまといついてもいたし。
脇をくぐったブッダ様の手は手で、
ヨシュア様の背中へきゅうと掴まっていて。

 「…………お布団敷く?」
 「…ん、ぅん。///////」

心 此処にあらずという体の、
熟れたように真っ赤なお顔の愛しいお人へ、

 横長のコタツにしとけば良かったね、なんて。

余計なことを言いそになったの、
ぐぐうと我慢したイエス様だったのだけれども。

 「〜〜〜〜っ。///////」
 「ありゃ。//////」

ごととっと揺れた こたつのやぐらのほう、
少しほど横の径が天板の縁より伸びたのは、
はてさてどっちの醸した奇跡のせいだったのか……vv












    お題 I“おやすみ前のぎゅーっvv”





    〜Fine〜    2013.11.25.〜 12.20.



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  *以上、バカップルな二人へ 10のお題、でした。
   ワープロの調子がいけなくなったのは、
   罰当たりな話を書いてたことへの、
   とうとう天罰が当たったのかもで。
   ううう〜〜、どないしょー。(苦笑)
   でもでも、まだまだ
   この甘い甘いお二人のお話を
   書きたいなぁと思っておりますので、
   よろしかったらお付き合いくださいませね?


   ※とりあえずの
おまけ


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掲示板&拍手レス bbs ですvv


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